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のめり込む性格 [雑感]

 僕は今の大学に来る前は、東洋文庫という東洋学の研究機関のチベット研究室というところにいた。もともとはインドの仏教論理学を専攻していたが、チベット研究室で研究事業を推進するために、チベットをテーマにした研究を専門にするようになった。東洋文庫は財団法人の研究所・図書館で、そのため財政基盤は脆弱であり、歴史と伝統がある割には専任の研究員は僕を入れて3人だった。人も金もなかったことになる。僕が専任になるまでは、チベット研究室は、ほとんど開店休業状態だった。僕はその中で何とか東洋文庫のチベット研究室をもり立てるために、様々な研究事業をしてきた。チベット研究室の存在(自体は世界的にも有名だったが、その割に活動は停滞していたので)を世にアピールするために、学界に貢献するような基礎作業を提供しようと考え、いくつかの索引や翻訳、校訂出版などを公刊した。その後、Macintosh上でチベット文字が扱えるようになると、それを使ったチベット語文献のデータベースを作成するようになった。

 おりしも、(当時の)文部省から補助金が東洋文庫に下りることになった。そこで、東洋文庫をどのようにアピールしたらいいかを議論し、アジア各地域の膨大な図書と研究があるのだから、多言語のデータベースを作成するのが売りになるだろう、ということになり、Macintosh上で、特にアラビア文字やチベット文字など特殊言語の図書データベースを作成することにした。こういうことを安価でやってくれるような企業は、存在せず、東洋文庫内部で(ということは、僕が)プログラミングをして、その体制を作った。

 さらに別の補助金で東洋文庫のネットワーク化とインターネット接続をすることになった。これも外注はできないので、東洋文庫内にサーバーを数台設置し、WebサーバーやメールサーバーをFreeBSD上に構築すると同時に、内部向けにはMacinsoshのサーバーを立ち上げ、全館どこからでも作業をできるようにした。

 ある程度データが貯まった段階で、Web上でそのデータのオンライン検索をできるようにもした。シンプルだが、極めて高速に検索する。多くの一般ユーザーは、複雑なことができるけれども遅いシステムより、単純だけど即座に答えが返ってくるシステムの方を高く評価するものだ。そういうユーザーの心の底の要望を実現しようとした。

 これらを全て研究所内で作成していたわけだ。そのうちに余りにも忙しくなってしなったので、週に2、3日ほど半日だけデータベースのプログラマに応援に来てもらうようになって、二人で作業を分担したので、多少楽にはなったが、それでも、東洋文庫という弱小の研究機関が、多言語のデータベース、LAN、オンライン検索を含むWebサイトを構築・公開したのは、先駆的なサービスとなった。

 僕はこの作業にのめり込むように取り組んだ。もちろん、それだけで出来たわけではない。多くのアルバイトや職員の努力があったからだが、そこにエネルギーを注ぎ込み続ける必要があった。僕は自分のことは後回しにして、東洋文庫やチベット研究室をもり立てるために力を注いできた。それは「人のため」になると同時に、それを使って喜んでもらえたり、満足してもらえることが、僕にとっての喜びでもあり、やる気の源でもあった。しかし、同時にそれは東洋文庫全体の体制を僕の個人的な情熱に依存させ、スポイルすることにもなった。

 東洋文庫から大谷大学に移るとき、環境が変わって心機一転、行動パターンを少し変え、組織の機能に関わるようなことはできるだけ避けようと考えた。しかし、そうこうしているうちに、最近のブログの記事でも分かるように、僕は自分の所属する学科をもり立て、宣伝するために、大谷大学人文情報学科版Knoppixを作成、配布し、さらに学科のオフィシャルWebサイトも構築しようとしている。

 それだけではく、授業にもかなりの精力を傾注し、学生を「教え育てる」ことに努めようとしている。確かに、組織の機能に関わることはないが、つまり僕一人のできる範囲内のことではあるが、やはり、目の前の「やった方がいい」と思うことにのめり込んでいることには変わりはない。

 確かに僕は何にでものめり込むわけではない。よく考えてみたら、自分が属する組織や給料をもらっていることに対して、過剰に適応しようとし、そこを(僕が勝手に)理想(と思い込んでいる方向)に向けてドライブしようとしてしまうのだった。これは、人に何かを強要しない限りは、人に迷惑をかけるようなものではなく、むしろ歓迎されるものではあるだろう。だから誰も止めはしない(僕の妻だけは常にこの暴走を止めようとしているが)。ただ、いかにも異常な、普通そんなことしないよ、というような暴走に見えるの事実だ。

 ついつい目の前の緊急事と僕が思うことに時間と労力を傾注してしまうことは、ある種のひずみを色々なところに残していく。そのことに気付くとき、何とかそのドライブを引き留め、異常事態に陥らないようにしたいと思ってはいるが、後の祭りになってしまうことの方が多いのがつらいところだ。


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コメント 4

yobkeso

大谷大学のTibetan Language Kitの開発が止まっているようですが,最新のosxでTibetan Language Kitの再開はあるのでしょうか。
by yobkeso (2005-06-25 20:25) 

yfukuda

ご迷惑をおかけしています。

現在のところ、一応のフォントとキーボードレイアウトは作られ、おおよそ動いているのですが、改行がツェックで行われないという問題があり、これが解決できるかどうかを、今年度をリミットに検討しています。これが解決されれば、リリースできると思いますが、OS全体の問題の可能性があり、そうであるとすると、OSXでのリリースは断念するかもしれません。その場合でも、データのコンバートツールは提供いたします。
by yfukuda (2005-06-25 21:24) 

yobkeso

開発は続行しているとのことで安心しております。期待しています。
データのコンバートについて疑問があるのですが,osx以前のmacでのレガシー・ファイルをosx用にコンバートするツールなのですか,それともテキストの入力がうまくいっていないosxでのテキストファイルを古いmacで読めるようにする物でしょうか。
by yobkeso (2005-06-26 02:13) 

yfukuda

OS9用のTLKのデータをUnicodeに変換するツールです。ただし、テキストファイルのみで、日本語が混在していないような場合です。
by yfukuda (2005-06-26 03:21) 

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