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丸写しではなく、自分の頭で考える [ゼミ・教育]

大学の教育で、無力感に苛まれることの一つに、学生のやる気のなさがある。とは言え、中にも真面目に取り組もうとう学生も少なくはない。そういう真面目な学生でも、レポートや卒論、研究発表などを見ると、どこかの言葉をそのまま引き写した、ないしは、ましな場合には、典拠を明示して引用するばかりで、自分で考えたことを書いている場合は非常に少ない。

 内容だけではない。表現も、その原本のままのもので、そんな言葉を自分では使わないだろう、という文章ばかりだ。だから、その内容についてつっこんで聞いたら、ほとんど答えられない、あるいは、正直に自分もよく分かりません、という答えが返ってくる。

 たとえば、PowerPointのプレゼンを作らせても、とりわけ最近はインターネットで検索して探し当てた文章を、そのままか少し要約してか載せている場合が多い。だから、それを口頭でプレゼンさせると、しどろもどろで、発音さえよくできない。口に出してみる、ということさえせずに、ということは、内容を理解することもなく、表面的に引き写しただけだということを示している。

 もちろん、そういう学生ばかりではないことは確かだ。僕の学科の2年生は一年間PowerPointのプレゼンを作る学科の必修の演習があり、学年末にクラスから2チームずつでて、優勝を決めるコンテストをやるが、そこに出場してくるようなチームは、プレゼンのできはともかく、さすがに内容がよくわからず、表面的に言葉を貼り付けただけ、ということはない。

 ちょっと話はずれるが、そういうチームに問題なのは、プレゼンの仕方である。冗長だったり、独りよがりだったり、飽きてしまったり、・・・、そう、みんな見る人の心に届くものをつくろうという意識がない。単に自分たちが調べたことを一つのまとまった作品に仕上げようとしているだけで、どうしたら、見ている人の心に届くか、を最優先して作るようなことはない。

 ある程度素材が集まり、全体として何を言いたいのか、何を訴えたいのか、が固まってきたら、あとは、どうしたら見ている人の心を捕まえられるかを考えてプレゼンを作っていかなければならない。言葉は少なく、説明も少なく、説明よりも、見るだけで分かって、印象に残り、一枚一枚のページが、次のページを見たくなるように誘導していく、というように作らなければならない。自分のことばかり考えていては、プレゼンは作れない。見る人の心にシンパシーを感じつつ作らなければならない。

 それはさておき、そういうプレゼンを作るとき、どうしたら、既存の表現をそのまま貼り付けないものが作れるのか。初めから、そういうことは大学生には無理だ、という意見もありうる。たかだか20才程度の知識と経験では、世の中で既に行われている議論や意見を越えることなんて、出来るはずはないではないか。卒論だって、新たな見解なんて、1、2年勉強しただけの学生に出せるわけないじゃないか。と思うかも知れない。

 しかし、それはやり方に問題があるのだ。もちろん、知識は限られるし、膨大な知識と習練の積み重ねの上で研究されるようなことは、期待すべくもない。だが、これまでにないオリジナルな何か、そしてそれを自分の頭で考え出す、ということだけだったら、それは不可能なことではない。

 世の中、必要だけど、お金にならないからやられていないというようなことは、たくさんある。ニッチ・ビジネスじゃないが、誰もが見向きもしないことに着目して、馬力でかんばれば、いくらでも、新しい見解や新しいものを作ることはできる。高度ではなくても、身近なところにそういう題材は転がっている。

 問題は、そういうテーマを見つけ出し、それに対して、従来の考えに囚われない自由な発想と、体験に基づいた直感とで取り組めるかということ、特にテーマの善し悪しが大事である。ここらへんは、何度かやっていくうちに、うまいテーマに出会えるかもしれないし、あるいは先生と相談しながら考えるとかが必要かも知れない。ただし、先生の発想では、従来の型にはまった考え方しか出来なくなる可能性があるので、それもほどほどにしなくてはならない。

 そういう、自由な発想をするには、単にテーマを前にして頭を抱えていても始まらない。一つの有効な方法は、グループ学習だ。企業でも新しい企画を考えるときには、一人ではやらせない。必ずチームを組んで企画を出したり、取り組ませたりする。それは複数の人が意見を出し合い、話し合うことで、一人では出てこなかった、予想もしなかった見方、考え方、とらえ方ができるようになるからである。

 しかも、単にグループでやればいいというわけではない。そのための技法が企業では、「ブレーンストーミング」や「KJ法」などが使われている。そして、それを大学教育用にアレンジした方法を、大谷大学では今年度の新入生から必修の授業で教える試みが始まっている。これは、予想以上に効果のあがりそうな方法である。一年生がグループで意見を出し合い、一つのテーマについて、考え方を広げていく様子をみていると、それと比べて、同じようにグループでプレゼンを作ることになっている2年生が、集まっても、みんなほとんど口をきけず、話し合いが先に進まないのを見ていると、最初にこういう技法をトレーニングしているのとしていないのの違いが、はっきりと見て取れる。

 もちろん、この試みは始まったばかりで、かれらが2年生、3年生、4年生になったとき、専門の科目でどういう卒論や研究発表をするかを見なければ、最終的な判断はできないが、うまく育てれば、今までにない、活気のある大学生の研究ができるのではないかと思う。


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