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昨日、日本西蔵学会がありました [チベット]

 一年に一度の日本西蔵(ちべっと、と読みます。)学会がきのう、龍谷大学大宮キャンパスで開催されました。大体、関西で10校程度、関東で6、7校程度が毎年順ぐりに会場になります。僕は、ここ20年以上、毎年出席しています。というのも、この5年くらい前までは、この学会の事務局を担当していて、委員会での議事の準備や報告、開催校との連絡、大会での報告などをしていましたので、どこであれ、出席しなければならなかったのでした。

 その当時は学会の事務局が前に僕の在籍していた東洋文庫にあったのでしたが、今は、これまた僕の在籍している大谷大学に事務局が移転しています。といっても、もう僕は事務局を担当しているわけではなく、別の先生に代わっていただいています。もちろん、同じ大学ですし、お手伝いは(少しは)しています。

 以前、西蔵学会は午後1時から4時くらいまでに研究発表を行い、その後、総会、懇親会と進んで行ったのですが、ここ数年は、午前中に「コンピュータ利用懇談会」というのを10時から開催しています。これは、チベットに関するコンピュータ処理について、会員がそれぞれ報告をしたり、情報交換をしたりする会で、僕は事務局のお手伝いとして、この会の司会をしたり、事務局でのコンピュータ処理の作業について報告したりします。

今年は、これといった目玉になる報告はできなかったのですが、現在西蔵学会で公開している「日本におけるチベット研究文献目録」を、オンラインデータベース化して、Web上で入力や検索ができるようにする、という計画を報告しました。これは僕のゼミの4年生が卒論で取り組んで、ほぼ完成したものです。僕のゼミのテーマは「人の役に立つものを作る」ですが、こういうように、すぐに実用化できたのは初めてです。

 午後は研究発表が8つありました。昨年の学会では、仏教についての研究で、純粋にチベットで書かれたものを扱った研究は少なかったのですが、今年は仏教もそれ以外(歴史が一つ、言語が一つ)全部、ほぼ純粋にチベットに関するものでした。

 その中で僕の知り合いというか、一緒にいろいろやっていたりするのが、4人ほどいました。これは決して自画自賛ではないことを断っておきたいのですが、今年の発表には、感慨深いものがありました。というのは、そのうち二人は東京で僕がずっと続けているチベット語文献の講読会で教えてきた人で、その一人は論理学、もう一人は中観をやっています。その論理学は昔僕が書いた論文で触れたことを、より精密に、というか、主題的に取り上げた論じたものでした。その論文も15年くらい前に、まだだれもそんなことについて書いていないころ、何の参考資料もなく、直接原典を読んで、手探りで書いていたものでした。その後、僕のチベット論理学の理解も随分と進んできていて、そういう手ほどきを講読会でしていたのですが、彼はそれを前提として、もう一度より詳しく同じテーマを取り上げ直したのでした。

 もう一人ツォンカパの中観思想をやっている人は、現在、大谷大学で僕が指導教員となって研究員をしている人で(と言っても、たまにしか指導をしていませんが。)、最近の僕のツォンカパについての研究とほぼ同じ領域を、少し違った角度から研究しています。といっても、領域が同じ、つまり、ツォンカパの中観思想ですから、内容はかぶっていて、僕が書いたようなことを別の角度から検討する、別の角度から表現する、といった研究をしています。逆に言うと、僕の意見との相違を明確にしないと(解釈の問題ですから、違っていることは事実なのですが、その違いを明確に表現しないと)、聞いている側には、何かよく分からない、という印象が残ってしまいます。まあ、いずれにせよ、僕の研究の一部を引き継いでいる、といっていいでしょう。別に任せたわけではないので、僕は僕で、僕自身の理解と表現で自分の論文を書いていくつもりではありますが。

 それからもう一人、サキャパンディタの伝記について発表した人がいました。これは僕のお膝元大谷大学の大学院生ですが、指導教員は僕ではなく、同じ学内にいても、あまり顔を合わす機会はないのですが、その人が、それこそ20年前に、僕が妻と最初に共同研究で作った、そしてそれがきっかけになって結婚することにもなった記念碑的著作(?)『西蔵仏教宗義研究』「トゥカン著『一切宗義』モンゴルの章」で、僕が研究したサキャパンディタの伝記の研究を引き継いでやっていたのでした。僕はその伝記の後半部分、つまりサキャパンディタの晩年の部分をやったのてすが、その人は、残りの前半部分を検討したのでした。僕自身は、もう随分昔の研究で、しかもその後、その路線を続けていないので、何を書いたのか忘れていたのですが、結構いろいろ言っていたようでした。

 この三人の研究がみな、僕が昔(ないしはごく最近)やったことをそれぞれの分野で引き継ぎ、さらに発展させてくれていることに感慨深いものがありました。8人の発表者と言っても、そのうち二人は中国から来たチベット人の研究者でしたから、日本人は6人、そのうち、3人がそういうふうでした。残りの1人は、以前からの知り合いで、日頃も付き合いがあり、チベットから高僧がいらっしゃって灌頂などがあるときには、さそってくれる人で、ツォンカパの密教の研究者ですから、分野的にも近いものがあります。もう一人は、学会でお会いする以外には直接つきあいはないのですが、内容的には中観思想における重要な術語についての研究で、ただどちらかというと、インドよりの研究でしたから、やや離れるものの、一部は僕のチベット仏教の中観の研究に関係する部分があります。もう一人は、なんと上に挙げた僕が指導教員をやっている研究員がチベット語の手ほどをした学生で、まだまだ勉強が足りませんが、それでもある意味では僕の孫弟子という関係になります。と言う具合で日本人の発表者はみな何らかの形で僕の関係する人でした。

 もちろん、僕はまだ研究を放棄したわけでもなく、またそういう歳でもありませんし、僕の研究は僕にしかできないので、やはり自分の理解をより進めるために努力をしていきたいと思っています。その決意を新たにする、と言う意味でも感無量の一日でした。


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amba_omo

ブログ拝見しました。まだ初めのほうしか見ておりませんが、奥様のサイトの記事と符合する記述があっり、面白く読ませていただいています。
by amba_omo (2005-11-07 06:14) 

ishid K.

 土曜日の日本西蔵学会大会には、出席に丸をいたしましたが、日曜日に従兄弟の結婚式があり、出席がかないませんでした。M君の発表を楽しみにしていたのですが、彼にはあらかじめ出席できないことを告げておきました。本日の記事を読み、私もチベット語を、もっと頑張らないといけないとの思いを強くいたしました。
by ishid K. (2005-11-07 18:07) 

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